冠婚葬祭にはさまざまなマナーがありますが、なかでも葬儀関連は事前に準備する時間が短く、頭を悩ませることも多いでしょう。この記事では、仏式の供養に必須であるお布施の相場や袋の書き方、渡し方などを、丁寧に解説していきます。
お布施の意味と役割について
お布施とは、仏式の供養をしてもらった際に、僧侶に渡す謝礼金のことを指します。
そう言われると『お坊さんに報酬を渡している』というような気になるかもしれませんが、そういうわけではありません。
お布施は基本的に、お寺の御本尊に捧げることになっています。御本尊やお寺を維持し、守ることによって、お寺の運営が可能になります。そのためにお布施が使われるのです。
そのため、お布施を渡さない人が多いと、そのお寺自体が運営できなくなってしまうかもしれません。そういった意味で、お布施は重要な役割を果たしています。
3つのお布施とは
仏教には六波羅蜜(ろくはらみつ)という修行法があります。これは、6つの徳目を実践することで煩悩を打ち消し、悟りへと至ることができるとする、仏教の考え方です。
この6つの徳目というのは、布施、持戒、精進、忍辱、禅定、智慧のことです。『布施』はそのうちのひとつです。
布施とは、人に財や真理、安心といった施しを与えることとされており、さらに3つの種類に分けることができます。
金銭や食料を施すことを『財施』、読経したり法文したりすることを『法施』、法話などを通じて人の心から恐怖を取り除き心の平穏を与えることを『無畏施』と呼びます。
お布施はこの3つの『布施』のなかでも、『財施』にあたる行為です。
お通夜、葬儀で渡すお布施について
お布施は供養に対する謝礼として渡すものですが、『供養』といってもさまざまなかたちがあります。そのなかでも一番私たちの生活で身近なものは、お通夜や葬儀でしょう。そしてお通夜や葬儀は、お布施を渡す機会の代表格でもあります。
急な不幸で慌ただしいなかでも、お布施は忘れずに準備しておきましょう。
通夜、葬儀のお布施相場
お布施の相場額は、地域や宗派、そして故人の社会的立場や葬儀の規模などによって大きく変わります。また、お寺との関係や自分の経済状況によっても違いがあります。相場を踏まえて、適切な金額を包みましょう。
一般的には、15万円から40万円程度が相場だと言われています。しかし、40万円というのは、お布施のなかでもかなりランクが上になります。
だいたいは20万円前後が目安です。多く見積もっても30万円程度を考えておけば問題ないでしょう。
少なすぎるとお寺との関係が悪くなってしまうかもしれませんし、多すぎてもかえって相手を驚かせてしまうかもしれません。もし経済的に相場の金額を用意するのがむずかしいようでしたら、その気持ちを一言伝えれば、多くの場合は問題なく理解してもらえます。
地域や宗派によって金額は変わる
地域ごとのお布施の相場は、関東地方なら25万円程度、近畿地方なら20万円程度、その他の地域では15万円程度が目安となります。
自分が住んでいるところが関東でも、故人が関西出身で葬儀も現地で行われるのであれば、しっかりとその地方のルールや相場に倣うようにしてください。
また、以下で紹介するように、宗派や戒名の位によっても、相場の金額は変わります。
この戒名の位は自分で決めるのではなく、故人の地位やお寺との関係などを鑑みてお坊さんが決めるものです。その判断によって大きく相場が変わるので、心配なようでしたらお寺に相談しましょう。
もし家族や親類がどの宗派かを知らないのであれば、事前に聞いておくといざというときにスムーズに行動できるようになりますよ。
戒名料を含めることも
お経を読んでもらうことに対しての謝礼であるお布施には、『戒名料』が含まれることもあります。
戒名とは本来、仏教において受戒した人に与えられる名前ですが、『お坊さんが亡くなった人につける名前』と理解しておけばいいでしょう。また、浄土真宗では『法名』と呼びます。
この戒名料は、宗派と戒名の位に応じて大きく異なります。
例えば、『信士』や『信女』であれば、曹洞宗、真言宗、天台宗、臨済宗なら30万円から50万円ほどですが、浄土宗では30万円から40万円、日蓮宗になると30万円程度とされています。
『院信士』もしくは『院信女』の場合、日蓮宗は50万円、真言宗、天台宗、浄土宗は80万円程度が目安です。しかし、曹洞宗では100万円かかることもあります。
その他の場面でのお布施について
お通夜や葬儀以外の法事でも、僧侶を呼んでお経を読んでもらうのであれば、お布施を用意しておく必要があります。
法要や法事の際、うっかりお布施を忘れてしまわないように気をつけてください。
忌日法要、年忌法要のお布施金額相場
亡くなった日から7日後の初七日、49日目の四十九日、100日目の百か日は、『忌日法要』もしくは『中陰法要』と呼ばれる大事な法要です。
また、一周忌や三回忌といった『年忌法要』の際も、お布施を用意します。こういった法事の際は、だいたい3万円から5万円程度が相場だと考えておきましょう。
もしお坊さんを呼ばずに家族内で法事を済ますのであれば、お布施を渡す必要はありません。
お坊さんがいるお寺ではなく自宅や会場まで来てもらうときは、『お車代』として5千円から1万円程度を渡します。法要の後に宴席を用意するのであれば、『御膳料』として5千円から2万円程度を別途用意することになります。
定期法要のお布施金額相場
ほかにも、故人の供養のために行われる『定期法』があります。定期法要とは、お盆やお彼岸のことです。
初盆のお布施は3万円から5万円ほど、その後のお盆は5千円から1万円程度を目安にしましょう。
お彼岸の法要には、個別法要と合同法要があります。個別法要は故人ひとりに対し供養してもらうもので、合同法要はお寺で行われる法要に参加するかたちです。
個別法要ならば3万円から5万円ほど、合同法要であれば5千円から1万円ほどのお布施が相場となっています。初めてのお彼岸だったとしても、相場には差はありません。
祥月命日や月参りのときも、お墓参りだけでなくお坊さんに供養してもらうときは、お布施を用意します。そのときは、5千円から1万円ほどだと考えましょう。
納骨式など、そのほかお布施金額相場
これまで紹介した法要以外でも、お布施が必要になる場合があります。たとえば、納骨式や墓じまい、改葬の時などです。
こういったときは、それぞれ1万円から5万円程度が相場となっています。
それでも包む金額に迷ったら
目安としての金額を知っていても「実際のところはどうなんだろう」と迷ったり、「少しイレギュラーなかたちになったから金額の相場がわからない」と心配になったりすることもあるかもしれません。
そういった時は、お坊さんに直接聞いてみるか、葬儀社に相談してみて、納得のいく金額を決めましょう。
お坊さんに直接聞いてみる
お坊さんにお布施の金額を聞くことは失礼に当たると思うかもしれませんが、基本的には問題ありません。
葬儀関連の費用は明記されていないことも多いので、お坊さんやお寺は問い合わせられることに慣れています。
ただ、「おいくらですか」と聞くのは失礼にあたるので、「ほかの方はどれぐらい包んでいらっしゃるのでしょうか」という間接的な聞き方の方が、相手も答え安くなります。
もし経済的不安があるようなら、それを素直に伝えてもいいでしょう。
葬儀社に相談してみる
普段お寺と交流がないと、お坊さんに直接尋ねるのは気が引けるという方もいるでしょう。その場合、葬儀社の人に相談するのもひとつの方法です。地域や宗派、法要の規模などを踏まえて、適切なアドバイスをしてくれるでしょう。
また、葬儀社がお坊さんを手配する場合、ある程度相場を把握しているはずなので、より確実な回答が期待できます。
お布施袋の選び方
結婚式のご祝儀袋や葬儀の香典袋の選び方にはさまざまなルールがあるように、お布施袋の選び方にもルールがあります。
マナーを守ったお布施袋を選ぶようにしましょう。
お布施の袋
お布施は、お金をそのまま渡してはいけません。とても失礼にあたるので、袋に包んで渡すのが礼儀です。そのため、お布施を渡すときはそれに応じた袋を用意してください。
この袋にはいくつかの種類やルールがあります。当日困ってしまわないためにも、そういったマナーをしっかりと押さえておきましょう。
正式なお布施袋
お布施の袋として使われる袋のなかで一番丁寧とされるのが、奉書紙と呼ばれるもので包むことです。
半紙で中包を作ってお金を入れ、奉書紙で上包みします。上包みの折り方は、慶事と同じもので構いません。それは、お坊さん自身に不幸があったわけではないからです。
故人の社会的立場が高かった場合や位の高い戒名になる場合などは、可能であれば奉書紙を用意しましょう。奉書紙は、文房具店やオンラインで購入可能です。かさばるものではないので、いくつか家にストックしておくと、いざという時に役に立つでしょう。
御布施と書かれた封筒を使う
日常生活では奉書紙を見かけることが少ないので、手元にない、もしくは買いに行く時間がないという人もいるかもしれません。
そんな時は、『お布施』と印字されている封筒を使うといいでしょう。文房具店やコンビニでも買えるので、急いで葬儀に向かう時でも比較的手に入れやすいといえます。
何も書いてない白い封筒でも可
『お布施』と書かれている封筒が見つからないときは、何も書かれていない白い封筒を使うことも可能です。ただし、郵送に使うものではないので、郵便番号の欄が書かれていないものにしてください。
その場合、自ら表書きをして、必要があれば裏面に自分の住所と納めた金額を記入します。
また、二重封筒は「不幸が重なる」という意味になるので避けましょう。
一般的には水引は不要
お布施袋には基本的に「水引は必要ない」と言われています。しかし、地域によっては水引を使うところもあります。その場合、白黒の水引か双銀の水引が使われることが多いです。また、関西の一部地域では、黄白の水引が使われます。
ただ、これは一部の例外なので、特にそういったマナーを聞いたことがないのであれば、水引はつけない方が無難です。
お布施袋の書き方マナー
お金とお布施袋を用意したら、マナーに則ってお布施袋の表書きをし、裏面に住所と金額を書きます。書き損じないように一度練習しておくか、失敗したときのためにいくつかのお布施袋を手元に用意しておくと安心です。
薄墨では書かない
お布施袋の表書きは、薄墨ではなく普通の黒墨を使います。香典の表書きのルールと混同しないように気をつけてください。
そもそも薄墨が弔事に使用されるのには『涙が落ちて墨の色が薄くなってしまった』という意味があります。お布施はあくまで僧侶への謝礼のため、悲しみを表す薄墨を使用する必要はありません。
墨や筆がない場合、コンビニで買った筆ペンで代用しても問題ありません。しかし、ボールペンや鉛筆などは極力使わないようにしましょう。
表書きとして、表面の真ん中上に、『お布施』や『御布施』、または『御経料』と書きます。その下に少しスペースを空けて施主のフルネームを書くか、『田中家』のように名字を書くようにします。
名前、住所の書き方
中包の裏面には、改めて名前と住所を書きます。裏面の左下に、右から住所、名前の順で書きましょう。
漢数字は旧字体で書く方が良いとされていますが、必ずしも旧字体でなければ失礼にあたるというわけではありません。ただ、あまりこだわりがないのであれば、旧字体で書くほうが無難です。
こちらも、記入の際は薄墨ではなく濃墨を使います。もし中包がなければ、直接封筒の裏面の左側に住所を書きます。
お布施の場合、香典やご祝儀のように受付係が多くの人から同時にお金を受け取るわけではありません。そのため、表面に氏名を書いていれば、住所や金額を必ずしも書く必要はない、と考える人もいます。
しかし、お寺との関係が深くない場合、お寺の方で顔と名前が一致しない可能性があるので、書いておいた方が親切です。
金額の書き方
金額を書くときは、中包の裏面の右側に書くか、表面の中央上側に書くかのどちらかがマナーです。
先頭に『金』と書き、続けて包んだ金額を書きます。金額の漢数字は旧字体で書くのが一般的です。5千円であれば『伍阡圓』、3万円であれば『参萬圓』となります。
お布施の入れ方と渡し方
お布施袋の準備を万端に整えたら、あとは正しい方向でお札を入れ、お坊さんやお寺に渡すだけです。最後まで気を抜かず、マナーに則った方法でお布施を納めましょう。
入れるお札の向き
お布施袋にお金を入れる際は、慶事と同じ方法になります。
顔が印刷されている面が表に来るようにお札を入れましょう。その際、お札の顔が開け口側に来るようにします。お札はすべて向きを揃えて入れてください。
お布施は基本的に新札、もしくは綺麗なお札を使うようにします。通夜や葬儀のような急な出来事で、新札を準備するのがむずかしいときは、出来る限り綺麗なお札であれば問題ありません。
ただ、その後の法事や法要はすでに日付が決まっているので、基本的に新札を準備しましょう。
手渡しはNG
お布施を渡すとき、直接手で渡すのはマナー違反とされています。基本的には、小さなお盆に乗せて、表書きの文字がお坊さんの正面にくるような向きで渡します。
お布施の渡し方としては、切手盆(きってぼん)と呼ばれるお盆を使うのが正式な形とされてはいますが、用意するのがむずかしい場合、葬儀社の人に借りられないか尋ねてみましょう。
手元にお盆がないときは、ご祝儀や香典と同じように、袱紗に包んで目の前で広げて渡してもかまいません。
袱紗で包む場合、慶事ではなく凶事の方法になるので、間違えないように注意してください。
領収書が必要な場合は伝える
お布施は結構な額になることもあるので、領収書を受け取った方が安心だと思う人もいるでしょう。
こちらが言わなくても領収書を用意してくれるところもありますし、お願いすればすぐに書いてくれるところも多くあります。お寺やお坊さんに領収書をお願いするのは気が引ける方もいるかもしれませんが、基本的にはあまり気にせずに声をかければいいでしょう。
一方で、金銭のやり取りを書類として残すことを避け、領収書を発行していないお寺もあります。その場合は、強くお願いするとお寺との関係が悪くなってしまうかもしれませんので、自分でメモを残しておくほうが無難です。
こういったことは税務署でもある程度理解してくれるので、お寺の名称や住所、支払日、金額、目的などをしっかりと記録として残しておけば、認められることが多くなっています。
まとめ
日常生活では、お布施に触れる機会はほとんどありませんが、身近な人の不幸はいつどのような形で訪れるかはわかりません。もしもの時に備えて、『お布施』に関する正しい知識とマナーを身につけておくようにしましょう。