介護保険料を支払ってはいても、いざ親の介護をするときにどのくらいの費用がかかり、どの程度自己負担しなければならないのか、ということまではわからないものです。ここでは、介護にかかる費用について、公的な保険や支援を中心に解説します。
介護にかかる費用と負担額
介護費用は介護される人の状態や、どんな介護を行うのかによって変わります。自己負担しなければならない金額についても、所得や家族構成などで違うため、自分の世帯ではどうなるのかを具体的に把握しておく必要があります。
年間にかかる介護費用
2016年に実施された公益財団法人・家計経済研究所の調査『在宅介護のお金と負担』によると、在宅介護にかかる支出額(自己負担額)は1人当たりの平均で50,000円となっています。これには介護保険による介護サービス利用の自己負担分だけでなく、医療費やオムツ代など介護サービス以外の費用も含まれます。
あくまでも平均値ですので、要介護度や認知症の有無によっても変わりますが、仮に毎月5万円だとして、単純に計算すると年間で60万円かかります。
費用負担は誰がするべきか
では、その介護費用は誰が負担するべきなのでしょうか。
厚生労働省がおこなった『仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査(2013年実施)』では、介護費用を『自分は負担していない(親などが負担)』という回答がもっとも多く、男女ともに半数以上となっています。
もちろん親に貯蓄や充分な年金収入があれば、介護費用はそこから捻出されるのが一般的といえますが、それでは足りない場合には子どもたちが負担することになるでしょう。
したがって、早めに親の経済状況を確認し、家族間で介護費用の分担について話し合っておくことが大切です。
在宅介護と施設介護サービスでは費用が違う
自宅で介護をするのと、介護施設に入居するのでは、かかる費用やその内訳は当然異なります。
ここからは介護の形態による費用の違いをみていきましょう。
在宅介護サービスの内訳と総額
先にもご紹介したように、1カ月あたりの在宅介護費用(自己負担額)は平均50,000円です。
このうち、介護保険サービス費用(デイサービスや身体的介護など)は16,000円、介護サービス以外にかかる費用(医療費、食費、用品代など)が34,000円となっています。
もちろん要介護度や認知症の有無により費用は大きく変わります。要介護5で重度の認知症の場合、在宅でも1カ月平均130,000円もの費用がかかっているようです。
施設介護サービスの内訳と総額
介護施設に入居すると、上記の金額に居住費・食費・光熱費などの利用料が加わります。
利用料は公的な施設で毎月50,000円から150,000円、民間では最低でも150,000円以上で、入居一時金も数十万円以上はかかるのが普通です。
ほかにも、レクレーション等イベントに参加したり、買い物や掃除などを頼んだりする場合は別途費用がかかってきます。
介護の税金控除は頼れる味方
介護保険が適用されるのは、実施される介護サービスの費用だけです。しかも給付金額に上限があるので、超えた分は自己負担となります。
そして実際には、介護サービス以外にも医療費や紙おむつ代、介護に便利なグッズの購入費などさまざまな支出があり、全て合算するとかなりの出費を覚悟しなければなりません。
しかし介護に関する費用には、税金が控除されたり非課税となるものがあります。こうした制度を活用して、少しでも負担を減らしていきましょう。
医療費控除の対象となるサービス
もっとも手軽な税金控除が、介護をしていない方にもお馴染みの医療費控除です。下記の介護サービスなどにかかる費用も医療費控除の対象になります。
- 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設に入居している方の介護費・食費・住居費
- 訪問リハビリテーションや訪問入浴介護などの自宅における訪問ケアサービス
- リハビリテーションやデイケアサービスなど、通うタイプのケアサービス
- 短期的な介護施設への入居
おむつの費用も控除対象
利用頻度が高く、金額がかさんでしまうおむつ代も、医療費控除の対象になります。
控除を受けるには、診察時などに担当の医師に『おむつ使用証明書』を発行してもらい、おむつを購入したことがはっきりわかる領収書を確定申告書に添付するか、提示することが必要となります。
証明書の発行には特に難しい検査などは必要ないので、おむつを使っているならぜひ発行してもらいましょう。
なお、2017年度より医療費控除の領収書について取り扱いが変わっています。領収書に代わって、医療費の明細書又は医療保険者等の医療費通知を確定申告書に添付しなければならないので、ご注意ください。
市町村窓口で控除対象となるサービスの確認を
ほかにも、医療費控除の対象となる経費はいろいろあります。
自宅から病院やデイケアサービスに通うときの交通費や、控除適用外とされているサービスを受けている最中に必要な医療行為が行われた場合、その費用についてのみ適用されることもあります。
これは適用されないかも、などと自己判断はせずにお住まいの市町村窓口や国税局の電話相談センターなどに相談してみましょう。
厚生労働省による介護保険の仕組みと現状
介護保険は、40歳以上のすべての国民が加入するもので、要介護認定を受けた人が少ない自己負担で介護サービスを利用できるための仕組みです。
しかし、急速な高齢化により介護にかかる費用が年々増加しており、保険料の負担も増す傾向にあります。
増え続ける介護費用と保険料の推移
2016年3月に厚生労働省がまとめた『介護費の動向について』という資料によれば、介護の総費用は2000年度で3.6兆円だったのが、2016年度予算では10.4兆円を計上しています。16年で3倍以上も増加しているのです。
また、65歳以上の人が支払う介護保険料も2000年は月額2,911円でしたが、2016年には5,514円とほぼ倍増となっています。
日本全体でみると、介護費用は右肩上がりに増え続け、それに伴い保険料の支払額も増加しているという現状です。
介護保険サービスの仕組みと現状
介護保険は40歳以上の人が保険料を納め、被保険者となります。40歳から64歳までは第2号被保険者、65歳以上は第1号被保険者とされ、それぞれ介護保険を利用できる条件や保険料が異なります。
介護保険サービスを利用するには、要介護認定を受ける必要があります。介護を必要とする度合いに応じて要介護度が定められていますので、ケアマネージャーがそれに合った適正なケアプランを作成し、実行される仕組みです。
また、介護保険の利用が増え続けているため、制度維持のために保険料や自己負担割合を増加させるような改正も行われています。
利用料と利用限度額
介護保険の対象サービスを利用した場合の利用者の自己負担の割合は、基本的にかかった費用の1割ですが、一定以上の所得がある方は2割となっています。例えば、1万円のサービスを利用すると、自己負担は1,000円もしくは2,000円です。
介護保険施設に入居すると、居住費や食費、日常生活にかかる雑費などは自己負担となります。また、在宅のサービスを利用する場合は要介護度によって支給限度額が決まっており、超えた分は全額自己負担です。
このため、所得の低い方や1カ月の利用料が高額になった方には、別途負担軽減の措置があります。
自己負担の引き上げ
2017年5月に改正介護保険法が成立し、自己負担の割合が変更になりました。
今までも所得の高い方は2割負担だったのですが、その中でも特に所得の高い層に限り、3割に引き上げられることになります。3割負担となる目安は、単身世帯で340万円以上、夫婦の世帯では463万円以上です。
実際に施行されるのは2018年8月の予定ですが、これまで1万円のサービスに対して2,000円の自己負担で済んでいたのが3,000円になってしまうというのは、とても大変なことですね。
ただ、自己負担の上限額というのも設定されていて、月額44,000円を超えた分はあとで払い戻してもらえます。自己負担額の割合が2割から3割に増えても、単純に介護費用が1.5倍になるわけではありません。
まとめ
介護保険で利用できるサービスは、要介護度によって細かく決められています。しかし利用できる金額に上限があり、介護保険給付対象外の費用も意外にかかるものです。
こうした費用は、税金控除や上限額の払い戻しなどの対策をすることで軽減できるので、積極的に活用しましょう。
ただし介護に関する費用や補助制度は、変更されることが多いです。自治体やケアマネージャーさんと連携して、こまめに情報をチェックすることを心がけてください。