老後の暮らしの基盤となるのが『住宅』です。『持ち家』か『賃貸』を比較した際に、高齢者にとってよいのはどちらなのでしょうか。老後をより豊かに安心して暮らすために海外移住を計画する人もいる中で、今から考えておくべき『住』のポイントを解説します。
老後賃貸のメリット
日本では、持ち家が一種の社会的なステイタスとしてとらえられがちですが、あえてマイホームを手放し、老後を賃貸で暮らす人も少なくありません。このような人はどんな利点を考慮し、賃貸を選んだのでしょうか?
生活スタイルに合わせて引越せる
賃貸住宅は、自分の生活スタイルに合わせ、住みたいところに何度も引っ越せるというメリットがあります。例えば、交通の利便性が良く、買い物に便利な都市部を選ぶこともできれば、物価が安く、空気の綺麗な郊外に、庭付きの物件を安く借りることもできるでしょう。
また、万が一隣人とのトラブルが起こった場合、持ち家だと簡単に家を手放すわけにはいきませんが、賃貸の場合は気軽に引っ越すことができます。
家の維持管理が楽
賃貸住宅は、家賃及び管理費用を支払っているので、基本的に家の修繕や水回りのメンテナンスなどを自費で賄う必要がありません。故意に壊したものでなければ、不動産会社か大家さんが業者を手配して修理を行ってくれます。
一方、持ち家は、年数が経つにつれ修繕費用がかさみ、自分が年をとると、家や庭の手入れが行き届かなくなってしまうことがほとんどです。また、固定資産税・都市計画税などの税金や、災害保険などの費用も自分で負担しなければなりません。
家の維持管理やメンテナンスの点から考えると、賃貸のメリットは大きいといえます。
相続の負担がない
子供や兄弟、同居人がいる場合、持ち家をどう相続するかで悩む人が多いようです。持ち家は現金のように簡単に分けられるものではありません。相続人全員が納得できる形を提案する必要がありますが、それがなかなか難しいのが実状です。
一方で、賃貸は相続の負担がなく、自分の子供や兄弟同士が仲たがいする心配もないでしょう。
老後賃貸の不安要素とは
高齢になると、若い時には考えもしなかった様々な問題や不安が出てきます。老後賃貸は必ずしもメリットばかりではありませんので、しっかりとシュミレーションをしておくことが大切です。
定年後の家賃が払えるか?
賃貸住宅は、毎月の家賃や管理費が発生します。さらに、引っ越しのたびに敷金や礼金、仲介手数料などが必要となり、初期費用の目安は、家賃の4カ月~6カ月ほどです。
毎月、十分な収入がある場合はいいですが、定年後は、全て年金と貯金で賄わなくてはいけません。年金収入のうち、家賃が占める割合が多くなると、生活が苦しくなることが考えられます。
高齢だと契約できない?
高齢化が進むにつれて、賃貸住宅市場にも様々な問題が浮上してきています。単身高齢者の賃貸暮らしに不安を感じるオーナーも多く、一部では、高齢者に対して入居制限を設けているというケースがあります。
年金しか収入がなく、貯金を崩しながら暮らしているような高齢者の場合は、家賃の支払いが滞ってしまうことが考えられます。また、健康面に不安を持つ人の場合、部屋で孤独死する可能性も否定できません。
死亡者が出てしまった物件は、次の入居者が見つかるまで時間がかかるため、物件オーナーにとっては非常に大きな痛手となります。
最近は、60歳を過ぎても再雇用で元気に働いている人が多くなっていますが、70歳を超えると、賃貸物件の審査を通すのは困難になってしまうようです。
ステータスとしての持ち家
『持ち家があるかどうか』はその人の経済力や生活基盤の安定さを測る1つの目安で、社会的身分の象徴でもあります。
持ち家という自分の財産がない人は、賃貸で家賃を払い続けなければならず、オーナーが退去を望めば、それに従うしかありません。
日本では、『持ち家』と『賃貸』の間には社会的格差があると考えられていますが、気持ちの余裕や安心感は持ち家の方が高いといえるでしょう。
老後賃貸を選ぶときのポイント
高齢になると、賃貸の新規契約・更新時に審査が通らない可能性もあることを説明しましたが、だからと言って、持ち家のない人が全てホームレスになってしまうというわけではありません。高齢者が賃貸を選ぶ時のポイントについて説明します。
高齢者専用賃貸について
高齢者を対象にした高齢者専用賃貸住宅、通称『高専賃』という住宅が年々増えつつあります。都道府県単位で認可・登録された賃貸住宅で、介護認定なしの自立高齢者、または『軽度の要介護』の高齢者が入居できるものです。
一般的な賃貸住宅に比べ、費用が高いことがデメリットですが、住宅設計が高齢者向けになっていることや、病院とスムーズな連携がとれることなど、高齢者にとっては暮らしやすい環境が整っています。
十分な年金収入があれば、夫婦で高専賃に入居するのもいいかもしれません。
老後は海外移住という選択肢も
年金は海外にいても受け取ることができるので、体が元気であれば、海外に移住するという選択肢もあります。
特に、物価が比較的安いアジア諸国では、日本の賃貸と同じくらいの値段で、家具付きのマンションを借りることも可能です。
国によりますが、日本と違って家政婦を職業とする人が多いので、身の回りの食事や洗濯などをサポートしてもらうこともできるでしょう。
老後に日本を離れることは、慣れない習慣や言葉、食事の違いなどで、どうしてもホームシックになってしまいます。日本人が多くいる比較的大きな都市を選ぶことが、老後の海外生活を楽しむポイントです。
まとめ
老後の住まいというと、不安な気持ちばかりが大きくなっていきますが、高齢化に伴い、社会も変化をしています。今後は、高齢者向けの住宅などがどんどん増えていくでしょう。
老後を考えるのはまだ早いという人も、今のうちから、様々なシュミレーションをしておくことをおすすめします。